「AIを使って業務を効率化したい」というご相談をいただくとき、いちばん多い質問が「結局、何から始めればいいのか」です。私たちは健康食品とペット用品の自社ECを運営してきた事業者として、まず自分たちの現場でAIを使い、効果があったものだけをAI事業としてお客様に提供しています。この記事では、EC運営の現場で実際に「最初の一歩」として効いた使い方を、順番も含めて整理します。
最初に失敗しやすいのが、いきなり人の仕事をAIに置き換えようとすることです。商品説明文をAIに丸ごと書かせて、そのまま公開する。問い合わせ返信をAIに任せて、そのまま送信する。この進め方は、たいてい一度の事故で止まります。
私たちが自社ECで固めた原則はシンプルです。AIには「0から1」を作らせ、「1から完成」は人がやる。つまり下書き係として使います。白紙から書き起こす時間がゼロになるだけで、実務の体感はかなり変わります。判断と責任は人が持ったままなので、事故も起きません。
逆に言えば、AI導入の効果は「AIがどれだけ賢いか」よりも「どの工程を下書きにできるか」で決まります。そこで、EC運営の中で下書き化しやすい領域を5つ挙げます。

もっとも導入が早く、効果も分かりやすい領域です。商品の成分・容量・想定利用シーン・ターゲット像といった素材をこちらから渡し、切り口の違うコピーを10案出させます。人が10案考えるのは大変ですが、10案から良いものを選び、事実確認して整えるのは短時間で済みます。
ポイントは、AIに商品知識を推測させないこと。事実(成分表・仕様・実際のお客様の声)は必ず自分たちで渡します。渡さなければAIは埋めてしまい、それが誤情報になります。
ECの問い合わせは、内容の8割が定型です。配送状況、返品交換、支払い方法、商品の使い方。過去の返信文とショップのルールをAIに渡しておき、来た問い合わせに対する返信案を作らせます。担当者は読んで直して送るだけになります。
返信スピードそのものより、担当者ごとの回答品質のばらつきが減る効果が大きいと感じています。新人でもベテランの言い回しをベースに返せるようになります。
読み切れずに溜まっていく情報を、AIに読ませて要約・分類させます。「今月のレビュー200件を、褒められている点/不満点/要望に分類して、多い順に並べる」といった作業です。
これは効率化というより、これまで手が回らず捨てていた情報を使えるようにする使い方です。商品改良やLP改善のネタが、既に自社の中にあることに気づけます。
広告文は数を出して試すものなので、案出しはAIと相性が良い領域です。訴求軸(価格・成分・使用シーン・悩み)ごとに文言を作らせ、実際に配信して数字で選びます。
ただし健康食品・化粧品を扱う場合、薬機法・景品表示法の表現規制があります。AIは平気で「効く」「改善する」と書いてくるため、NG表現のチェックは必ず人が行う体制が前提です。
売上データの推移コメント、会議の議事録、モール側の管理画面から落としたレポート。読む人が限られる資料づくりに時間をかけている会社は多いです。ここは要約させて、人は結論だけ確認する形にできます。
使い始める前に、社内で先に決めておくと後戻りしなくて済むことが3つあります。
この3つは、規模の大小に関係なく必要です。むしろ小さい組織のほうが、担当者の裁量で運用が決まってしまうため、先に決めておく価値があります。先に落とし穴を把握しておきたい方はECのAI活用でやってはいけないこと|現場で見てきた失敗パターン、どのサービスを使うか迷っている方はAIツールの選び方|EC事業者が業務利用で見るべき6つの基準もあわせてご覧ください。
初めて導入するなら、範囲を絞ったほうが確実に前に進みます。私たちが社内やご支援先で採っている進め方です。
大事なのは2週目です。個人が便利に使えている状態と、組織として使えている状態はまったく別物で、多くの会社が前者で止まります。うまくいった指示文を共有資産にしないと、担当者が変わった瞬間にゼロに戻ります。この「属人化させない」設計については、AI活用を属人化させない|EC企業のための「内製化」ロードマップで詳しく書いています。
1つの領域で手応えが出たら、業務のかたまりごとに設計していく段階に入ります。よく次に選ばれるのは、この2つです。
試す段階では無料版で十分です。ただし業務で継続的に使うなら、有料版を選ぶ理由が2つあります。1つは扱える文章量が増えること(過去の返信文やマニュアルをまとめて渡せる)、もう1つは入力内容を学習に使わない設定が選べることです。機密情報を扱うなら後者が重要になります。
この記事で挙げた5領域は、いずれもチャット画面で指示を出すだけで始められます。エンジニアが必要になるのは、既存の受注管理システムやモールのデータとつなぎ込む段階からです。まずはつなぎ込まない範囲で成果を出し、必要性がはっきりしてから開発を検討する順番をおすすめします。
間違えるものとして扱うのが正解です。だからこそ「下書き係」に限定し、事実は人が渡し、公開前に人が確認する工程を残します。逆に、AIに事実を尋ねる使い方(この成分の効果は何か、この法律ではどうなっているか)は避けてください。確認できる一次情報を人が用意し、それを整える作業をAIに任せる、という役割分担が安全です。
私たちは自社ECの運営で試してきた内容をベースに、EC事業者向けのAI活用支援を行っています。「どの業務から始めるべきか」の見極めから入りたい場合はAI顧問、担当者が自分で使える状態を作りたい場合はAI研修が入口になります。
自社の状況に当てはめて何から着手すべきか整理したい方は、AI事業のお問い合わせからお気軽にご相談ください。