ECの問い合わせ対応は、件数が増えても人を増やしにくい業務です。返信の速さと正確さがそのまま評価に跳ね返る一方、対応そのものは売上を直接生みません。私たちも自社ECで同じ壁に当たり、AIを組み込んで運用を作り直しました。この記事では、単に「AIで返信文を作る」で終わらせず、問い合わせ対応の設計としてどう組むかを、実際の分け方に沿って書きます。
まだAIを業務で使い始めていない段階の方は、先にEC運営で「まず何にAIを使う?」AI活用の始め方をご覧ください。
AI導入で最初にやるべきは、ツール選定ではなく問い合わせの棚卸しです。過去3か月分の問い合わせを読み、次の3層に分類します。

この分類が、そのままAIの担当範囲になります。第1層はテンプレート化とFAQ整備で、そもそもAIより先にやるべきことがあります。AIが効くのは第2層です。第3層は人が対応します。
ここを飛ばして全体にAIを当てると、第1層は「テンプレで済んだのに手間が増えた」、第3層は「AIの言い回しが火に油を注いだ」という結果になりがちです。
第2層の返信案をAIに作らせるには、AIに渡す材料が必要です。ここが実務の中心で、時間もかかります。逆にここが揃っていれば、どのAIサービスを使ってもそれなりの精度が出ます。
過去の返信から「これはお客様の反応が良かった」というものを、ケース別に10〜30通ほど選びます。数より質で、誰が書いたものでも良いから、社内で見本になる文章を集めます。この作業をベテラン担当者と一緒にやると、その人の暗黙知が文章として取り出せます。
「開封後の返品はどこまで受けるか」「配送遅延のとき送料をどうするか」といった、これまで担当者の判断で処理していたルールを文章にします。AIに渡すためというより、これがないとAIが勝手に約束してしまうため必須です。
実際にやってみると、社内でルールが統一されていなかったことが分かるケースが多いです。これはAI導入の副産物として価値のある発見です。
健康食品や化粧品を扱う場合、「治る」「効果があります」といった薬機法上の禁止表現をAIが書いてしまいます。「返金します」「次回は無料にします」など、権限のない約束も同じです。これらを明示的に禁止リストとして渡し、加えて送信前の人のチェック工程で必ず見る項目にします。
材料が揃ったら、次の流れで組みます。ツールは既に使っている問い合わせ管理システムやメールのままで構いません。
5番目を軽く見ないでください。「人がどこを直したか」が唯一の改善データです。同じ箇所を毎回直しているなら、それはルールか見本文の不足であり、指示を直せば次から出なくなります。この積み上げが3か月続くと、精度が体感で変わります。
問い合わせ対応は、業務の性質上どうしても個人情報に触れます。ここは曖昧にせず設計してください。私たちが基本としている考え方です。
「置き換えが面倒で守られない」という問題が起きるので、置き換え作業自体を仕組みに組み込むか、渡していい範囲を明確に線引きするかを、運用設計の段階で決めておきます。個人情報や表現規制まわりの論点はECのAI活用と法務リスク|薬機法・景表法・個人情報・著作権の実務ラインで整理しています。
「人の確認を挟まず自動で返したい」というご相談もよくいただきます。私たちの立場は、第1層に限って、条件を絞れば可能です。
具体的には、回答がシステム上のデータで一意に決まり(配送状況の照会など)、判断が入らず、間違えたときの被害が限定的なものに限ります。それ以外を自動化すると、AIが誤った約束をした場合にそのまま外に出てしまいます。工数削減の効果と、事故が起きたときの損失を比べて判断してください。
なお、人の確認を最後に残しつつ在庫や受発注まで踏み込んだ自動化の設計は、ECバックオフィスをAIエージェントで動かす|在庫・受発注の自動化設計で扱っています。
減り方は問い合わせの構成比で決まります。第2層の比率が高いショップほど効果が大きく、第1層が多いショップはAIより先にFAQ整備とテンプレート化のほうが効きます。まず過去3か月分を分類してみて、第2層が何割あるかを見るのが、投資判断の材料としてはいちばん確実です。
チャットボットはお客様に直接応答する仕組み、この記事で書いたのは担当者の作業を支える仕組みです。前者は導入の見え方が良い一方、回答の質が低いと離脱や不満に直結します。後者は外から見えませんが、人の確認が残るため事故のリスクが低く、しかも運用で溜まったルールと見本文はそのままチャットボットの土台になります。順番としては後者を先に整えることをおすすめしています。
ほとんどの場合、「使うと自分の仕事が増える」状態になっています。指示文を毎回自分で書かせる運用は、慣れた担当者にとっては手打ちより遅いためです。よく使うケースの指示文をあらかじめ用意し、貼るだけで使える状態にするのが解決策です。それでも使われないなら、その業務はAI向きではない可能性を検討してください。
問い合わせ対応へのAI導入は、ツール選定よりも分類・ルール整備・確認工程の設計で成否が決まります。私たちは自社ECで同じ設計を回してきた立場から、AI顧問として設計と運用の伴走を、AI研修として担当者が自力で改善を回せる状態づくりを行っています。
具体的な事例はAI活用事例に掲載しています。自社の問い合わせ構成を見ながら相談したい方は、AI事業のお問い合わせまでご連絡ください。