「AIを使いたいが、法務面が心配で止まっている」というご相談は多いです。特に健康食品・化粧品を扱うEC事業者にとって、これは慎重になるのが正しい論点です。私たちも自社ECで健康食品を販売しており、同じ懸念を持ちながら運用を組んできました。この記事では、EC事業でAIを使うときに実務上ぶつかる法務の論点を、どこに線を引いて運用するかという観点で整理します。
この記事は事業者としての実務整理であり、法的助言ではありません。個別の表現や運用の可否については、必ず自社の顧問弁護士・薬事の専門家にご確認ください。制度は改正されることもあるため、最新の情報は各所管庁の公表資料をご確認ください。
先に前提を整理します。AIを使ったから新しい規制がかかるわけではありません。商品ページに書けない表現は、人が書いてもAIが書いても書けません。
実務上の問題は、生成が速くなることで、確認されないまま外に出る量が増えることです。これまで1日に3本書いていた広告文が30本になれば、確認の負荷も10倍になります。ここに体制が追いつかないと、事故の確率が上がります。つまり対策の中心は、法律を新しく学ぶことよりチェック工程の設計にあります。

健康食品・サプリメント・化粧品を扱う事業者にとって、もっとも事故が起きやすい領域です。医薬品としての承認を受けていない商品について、疾病の治療や予防、身体の機能変化を示す表現は認められていません。
問題は、AIが指示しなければこの種の表現を普通に書いてくることです。学習した一般的な文章の中には、規制を意識していない表現が大量に含まれているためです。実務でよく出てくるのは次のような書き方です。
運用としては、禁止表現リストを指示に含めたうえで、公開前に人が必ず確認する二重の構えを取ります。ここでAIに「この表現は薬機法に違反しますか」と判断させてはいけません。AIの回答は根拠が確認できず、間違っていても分からないためです。判断は人が行い、必要なら専門家に確認する領域です。
実際より優れていると誤認させる表示(優良誤認)、取引条件が有利だと誤認させる表示(有利誤認)が問題になります。AI活用で特に注意が必要なのは次の2点です。
「No.1」「最安値」「業界初」といった表現は、それを裏付ける合理的な根拠が必要とされています。AIはコピーを量産する際にこの種の表現を入れてくることがありますが、根拠の有無はAIには分かりません。
チェックリストに「最上級・比較表現が入っていないか」を明示的に入れておくのが実務的です。
事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の感想であるかのように見せる表示は景品表示法上の不当表示として規制対象とされています。
AI活用の文脈で危ないのは、レビュー風の文章をAIに作らせることです。実在しないお客様の声を生成して掲載する行為は、この規制に触れる可能性が高く、そもそも事業の信頼を損ないます。私たちの方針は明確で、お客様の声は実際のものだけを使い、AIには要約・分類までを任せるという線引きです。
問い合わせ対応や受注データの処理でAIを使う場合、必ず検討が必要な論点です。実務上の整理は次のようになります。
置き換え作業が面倒だと守られなくなるため、仕組みとして組み込むか、渡していい範囲を明確に線引きすることを運用設計の段階で決めてください。具体的な組み方は問い合わせ対応をAIで軽くする|ECカスタマー対応・CRMの実践設計で書いています。
3つの場面で論点が分かれます。混同すると判断を誤りやすいので、分けて考えてください。
競合の商品説明文を読み込ませて自社用に書き換える、という使い方は避けてください。出力が元の表現に似た場合、著作権侵害の問題が生じ得ます。参考にするなら、表現ではなくお客様がどんな情報を求めているかという観点に留め、文章は自社の材料から作るのが安全です。
AIが生成した文章に自社の著作権が認められるかは、人がどれだけ創作に関与したかによると整理されています。実務的には、AIの出力をそのまま使わず、人が事実を加え編集して仕上げる運用にしておくほうが、権利面でも品質面でも安全です。
また、生成物が意図せず既存の著作物に似てしまう可能性は残ります。キャッチコピーのように短い表現でも、公開前に検索して既存のものと一致しないか確認する習慣をつけておくと安心です。
商品写真をAIで加工する場合、実物と異なる見た目になると景品表示法上の問題が生じ得ます。またキャラクターや人物の肖像に関わる生成は、著作権・肖像権の観点で別の論点が加わります。商品そのものを見せる用途では、実物の撮影を基本にすることをおすすめします。
法令を知っているだけでは事故は防げません。工程として組み込む必要があります。私たちが基本にしている構成です。
この5つは、生成量が増えるほど価値が上がります。効率化の設計と同時に組んでください。あとから足すのは難しくなります。
参考意見を得る使い方は可能ですが、それを判断の根拠にはできません。AIの回答は出典が確認できず、間違っていても分からないためです。実務では逆向きの使い方が有効です。つまり「この文章から、確認が必要そうな表現を列挙して」と依頼してチェックの見落としを減らす補助に使い、可否の判断は人と専門家が行う形です。
広く一律に義務づけられているわけではありませんが、掲載先のプラットフォームの規約で求められる場合があります。またお客様の感想であるかのように見せる形での利用は、前述のとおり景品表示法上の問題になり得ます。表示義務の有無とは別に、読み手を誤解させないという基準で判断するのが実務的です。
取り扱う商材の規制が厳しい場合、外向きの表現生成を見送るのは合理的な判断です。ただしその場合でも、レビューの要約・分類、問い合わせの分類、社内資料の整理、データの突合といった外に出ない業務なら同じリスクは生じません。効果が出る領域はここにも十分あるので、全面的に見送る前に業務を切り分けて検討することをおすすめします。
私たちは健康食品を扱う自社ECの運営者として、この線引きを自分たちの業務で決めてきました。同じ商材特性を持つ事業者の方には、実務に即した形でお話しできます。運用設計と判断に継続的に関わるAI顧問、チェック体制の作り方まで含めたAI研修、組織として運用を定着させるAI組織内製化支援をご用意しています。
失敗パターンを先に把握したい方はECのAI活用でやってはいけないこと|現場で見てきた失敗パターンもご覧ください。個別のご相談はAI事業のお問い合わせから承っています。